維持更新・保全技術
高度経済成長期に建設された膨大な道路インフラが高齢化し、修繕や更新の時期を迎えています。
また、頻発する自然災害による道路インフラへの被害も発生しています。
当社は長年培った橋梁建設技術に加え、高度な点検・診断技術により、道路インフラの長寿命化や更新に取り組んでおり、安全・安心のまちづくりに貢献しています。
高耐久性鋼床版
鋼床版とは縦リブ、横リブでデッキプレートを補剛した床版のことで、コンクリート系床版に比べ軽量で下部工への負担を低減できること、現地での工期を大幅に短縮できることなど利点がある一方、輪荷重を直接支持する構造のため、疲労耐久性の向上が求められています。
当社では、疲労耐久性に優れた鋼床版の開発に、各種取り組んでいます。
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1.疲労耐久性に優れる構造
従来の鋼床版構造において、疲労き裂発生個所が多い個所として、縦横リブ交差部が挙げられます。
そこで、疲労耐久性を高めるため、縦リブに平リブを採用、縦横リブ交差部の横リブにスリットを設け、縦リブと横リブとをすみ肉溶接で全周溶接することにより、縦横リブ交差部のスカラップを無くすことで、ホットスポット応力を下げる構造としました。
なお、この構造は、東京都市大学と当社を含む民間11社で構成された「取替用高性能鋼床版パネル開発研究会」にて開発した構造です。-
基本構造 -
縦横リブ交差部詳細
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2.更なる疲労耐久性の高度化(主桁ウェブ近傍の縦リブをサイズアップ)
リニューアル工事などで取替え鋼床版を適用する場合、主桁ウェブ近傍に輪荷重が載荷されることが想定されますが、主桁ウェブ近傍の縦横リブ交差部分では発生応力度が大きくなります。
そこで、更なる高耐久化として、主桁近傍の縦リブ高さ、板厚をサイズアップすることで、発生応力を低減することが可能となり、疲労耐久性を効率的に向上することが可能となります。◆関連特許
鋼床版及び橋梁(特許第6846555号)-
主桁ウェブ近傍の縦リブ
主桁ウェブ近傍の縦リブ高さ、板厚をサイズアップする
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適用事例
中国自動車道(特定更新等) 吹田JCT~中国池田IC間 橋梁更新工事(建設工事)
【縦リブサイズ】
- ①主桁近傍の第1縦リブ
PL-304×19 - ②主桁近傍の第2縦リブ
PL-275×19 - ③一般部
PL-256×16
- ①主桁近傍の第1縦リブ
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3.詳細な疲労照査が可能な解析技術
鋼床版の局部的な応力状態を適切に把握するためには、着目点毎の応力影響面を算出することが有効になります。
従来手法では、応力影響面を得るために多くの解析が必要でしたが、有限要素解析に相反定理を適用することにより、着目点毎に一度の解析で応力影響面を算出できる解析技術を、東北大学と共同で開発しました。
本手法により高度で且つ効率的な解析が実施でき、より信頼性の高い鋼床版の構造を設計することを可能としました。◆関連特許
応力影響線の算出方法及び鋼床版の疲労評価方法(特許第7473141号)
特許権者:国立大学法人東北大学、エム・エムブリッジ株式会社-
多々解析モデル全体図 -
鋼床版上面での着目点の応力影響面 -
着目点詳細 -
本手法と従来手法(単位荷重)との着目点応力の比較
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道路インフラの長寿命化・更新技術
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鋼橋の点検・診断・補強
高度経済成長期に建設された重交通路線の鋼トラス橋の腐食調査と補強設計、施工を行いました。
腐食による板厚の減肉量の計測には、塗膜・錆の上から板厚計測が可能な超音波板厚計測機「Cメジャー」(三菱重工メカトロシステムズ㈱保有)を用いました。
板厚が減肉している橋の保有耐力を把握するために応力頻度計測を実施し、橋体に発生している応力度の評価を行った上で補強範囲を決定したことにより、経済的な補強設計を実現しています。
減肉部の補強は、エポキシ樹脂系のパテを塗付して平滑に仕上げた上で高力ボルトによる当板補強を実施しました。 -
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大規模鋼桁改良技術
大阪都市圏を東西に結ぶ阪神高速13号東大阪線のうち、歴史的に重要な文化財である難波宮史跡を通過する高架橋は、史跡保全の観点から、支間10mと極端に短い単純鋼床版I桁を多数配した特殊な高架構造が採用されていました。
この特殊な構造が原因と推測される重大なき裂が幾度となく確認され、応急的な補修が実施されてきましたが、将来における維持管理の軽減および損傷発生リスクの低減に向け、大規模な構造改良が必要となりました。
この課題に対し、当社はわが国初となる1支承線化による部材取替連続化工法による抜本的構造改良を、8日間という短期の昼夜連続完全通行止めの期間にて施工し、大阪都市圏の大動脈である東大阪線への影響を最小限にとどめて完工しました。
長年の橋梁建設で培った技術を基に、構造改良の新たなソリューションを提供していきます。 -
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吊材のリフレッシュ技術
吊構造の橋梁(吊橋、斜張橋、アーチ橋等)にとって、吊材は橋を支える重要な部材の一つです。
近年、腐食や疲労によって、ケーブルに損傷が発見されるケースが増えてきました。
吊材が損傷した橋梁は、文字通り支えを失った状態となり安全性が損なわれ、通行止めを余儀なくされるため、一刻も早い原因究明や応急対策を行う必要があります。
この課題に対し、当社は橋体の復元設計技術に加え、破断面のミクロ組織を確認するといった詳細な調査を実施し、橋体の安全性を早急に診断する技術を有しています。
また、吊材の張力計測には通常、加速度計を用いますが、当社では、プラント分野で用いられるドップラー振動計を活用した非接触張力計測手法を用いることにより、高精度かつ短期間に張力計測を完了し、早期の道路復旧を果たすことができます。 -
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重要文化財永代橋の長寿命化工事
永代橋は、大正15年に建設された鋼3径間カンチレバー式タイドアーチ橋であり、近代東京の震災復興を象徴した、わが国の重要文化財です。
長寿命化検討の結果、耐震補強対策が必要とされたため、水平支承の追加や変位制限装置の改良を施工しました。
水平支承の追加においては、クリアランスがなく限られた空間に部材を設置する必要があり、高精度な施工が可能であるデジタルカメラによる3次元計測を活用して施工を行いました。
また、実物大模型や3次元モデルを用いた事前検討により、部材の搬入時や設置時に橋体を傷付けないよう十分に配慮しました。
わが国初の重要文化財橋梁の本格的な長寿命化工事を無事に完了させた当社は、今後も高い技術力で、難度の高い補修工事に取り組んでいきます。-
① 水平支承および補強受梁の設置
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② ゲルバー部の変位制限構造の改造
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③ 橋台部 変位制限装置(橋直)
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④ 橋台部 落橋防止装置(橋軸)※変位制限装置付
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疲労損傷を受けた橋梁の補修・補強技術
重交通路線下の橋梁においては、溶接部に繰り返し応力を受けることにより生じる疲労損傷(き裂)が発生することがあります。
当社では、このような疲労損傷を受けた橋梁に対し、損傷程度の確認、損傷要因の究明、対策と実施、その実施効果の確認まで一連の方策を体系的に実施しています。-
多非破壊検査による損傷程度の確認羅大橋 -
FEMによる原因の究明と対策効果の確認
実橋の応力頻度計測による原因の究明と対策効果の確認 -